リアリティのダンス
映画監督であり、漫画原作者、他にも、人形遣い、マイム役者、タロット研究者、サイコテラピストなど様々な顔を持つ男。
その名も、アレハンドロ・ホドロフスキー。
ホドロフスキーといえば、映画「エル・トポ」*1の監督として有名だ。
しかし、彼の自伝である『リアリティのダンス』(アレハンドロ・ホドロフスキー著、青木健司訳、文遊社)を読むと、ホドロフスキーの多岐にわたる活動に驚かされる。
少年時代は、ユダヤ人であることから差別を受けたり、厳格な父親との確執から、つらい日々を過ごす。自己防衛の手段として空想の世界へ逃避する。
青年期は、詩人の友人らとともにハプニング演劇を実践。
やがて、故郷チリを飛び出し、裸一貫で渡仏。
様々なエピソードが語られるのだが、アンドレ・ブルトンとの初対面が面白い。
憧れのシュルレアリスト、ブルトンに会うべくフランス南部にある彼の家を訪問。
あいにく不在とのことで、家で彼の帰りを待つことに。待つ間、緊張のあまり尿意を催し二階のトイレへ。トイレの扉を一気に開けると、不在と思っていたブルトンが!
面と向き合った師は、便器に腰かけ、ズボンを丸めて膝の下まで降ろし、大便をしていた。ブルトンは顔を真っ赤にして引きつらせ、首を切り落とされるとでも言わんばかりの、恐ろしい悲鳴をあげた。家じゅうはもちろん、近所にまで聞こえたはずだった。というのは、多くの犬が吠えだしたからだ。私はただちに扉を力まかせに閉めた。階段をどっと駆けおり、駅に向かって逃走した。(P319)
持ち前の好奇心から、禅の修行やシャーマニズム、果ては錬金術まで、あらゆるスピリチュアルな体験に接近。
呪術医による肝臓摘出手術を受けて青ざめたり、怪しげなグルに唆されてドラッグを飲んでトリップしたりと、この手の奇妙キテレツなエピソードに事欠かない。
後年は、芸術の目的を“癒し”と説き、心理学に演劇性を取り入れたサイコテラピーによって悩める人々を救っている。
この自伝を彼自身が映画化した『リアリティのダンス』*2が、昨年、日本でも公開され、ちょっとしたホドロフスキーイヤーとなった。
85歳になる現在もピンピンしているようだ。
こうなったら100歳を過ぎてもリアリティのダンスを踊り続けてほしい。