お金が無くても生きられますか?
1年間まったくお金を使わずに生活することは可能か。
『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(マーク・ボイル著、吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店)は、そんな実験を本当にやってしまった男の記録。
著者はアイルランド出身の青年。実験の張本人であり、イギリスではフリーエコノミー(無買経済)運動を展開している。
自らの実験を通して、行き過ぎた消費社会に疑問を投げ掛ける。
お金がなくても「なんとか生きられる」どころか「豊かに暮らせる」ことを証明するのが、実験の目的の一つだ。(P87)
と宣言している通り、悲壮感とはほど遠い。
なんと実験開始日には、廃棄食品と野外採集した食材だけを使ったフルコース料理を150人にふるまうパーティーを開いてしまう。もちろん参加費はタダ。
お金を使わないというルールだが、その徹底ぶりは見事。例えば、
- 化石燃料は使わない(誰かに車で送ってくれると言われても辞退)。
- 電気は引かずに自家発電(シャワーは太陽熱で温めた川の水)。
- 食料は、栽培するか、採集するか、拾うか、交換(いずれの場合もオーガニックのビーガン食*1に限る)。
ちょっと極端な気もしなくもない。
実験中には恋人も去ってしまうが、孤独というわけではない。
仲間をはじめたくさんの人が彼を助けている。
ぼくがカネなし生活からまっさきに学んだ最大の教訓は、人生を信じることであった。みずから与える精神を持って日々を生きれば、必要な物は必要なときにきっと与えられる。(P270)
カネなし生活はまねできないが、大いに啓蒙された一冊。
*1:動物を搾取することを拒み、植物性のもの以外を口にしないライフスタイル。卵・乳製品も食べない