老化するお金
『モモ』という児童小説をご存じだろうか。あらすじは、
円形劇場跡のある街に流れ着いた不思議な少女モモ。この平穏な街でモモは人々の話に耳を傾けながら幸せに暮らしていた。ところがある時、街に灰色の男たちがやってきて、暇な時間を時間貯蓄銀行に預けるようにそそのかす。人々が時間を預けるとたちまち心から余裕が消えてゆき生活は一転する。モモは奪われた時間を取り戻すために冒険に出る…。
この物語には、お金がお金を生む現代の経済システムへの警鐘が込められている。
『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』(河邑厚徳+グループ現代著、講談社+α文庫)は、NHKのドキュメンタリー番組から生まれた書籍。『モモ』の著者ミヒャエル・エンデへのインタビューをもとに構成されている。インタビューでエンデはこう語っている。
現代のお金がもつ本来の問題は、お金自体が商品として売買されていることです。本来、等価代償であるべきお金がそれ自体が商品になったこと、これが決定的な問題です。(P53)
元々は、物やサービスを手に入れるための手段にすぎなかったお金が、ある時からそれ自体が目的化したということ。
パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は別もの。いま世界中で動いているお金の95%以上が、実際の経済の商品やサービスの取引に対応したものではないという。
また、エンデが根本的な問題として指摘するのは、貨幣経済が自己増殖を前提としていること。
お金は増えていかなければいけないというこの前提は、社会に経済成長を強いる。環境汚染、労働環境の悪化、食品の偽装問題など、何よりも経済成長を優先させることで生じた歪はあちこちで見られる。
経済学者のシルビオ・ゲゼル(1862-1930)は、お金もあらゆる自然界の存在と同じように、年をとり最後は消えていくべきだと考えた。
「お金は老化しなければならない」という思想のもとで提案されたのが自由貨幣(消滅貨幣)。この貨幣は、減価していくため保有期間が長ければ長いほどその価値は下がる。そのため貯め込まずに積極的に使うようになる。血液のようにお金が循環することで経済が活性化されるというわけだ。
この試みはオーストリアにおいて大きな成果をあげるのだが、紙券発行の独占権を失うことを危惧した中央銀行によって禁止されてしまう。
現在では、自由貨幣の流れを汲んだ地域通貨が世界中で利用されている。
好もうが好むまいが、資本主義というシステムの中で私たちは生きている。
問題があるからといってこうしたシステムを変えるのは容易ではない。
筆者は、資本主義の崩壊は望まないし、共産主義が良いとも思わない。
地域化の流れや贈与経済はひとつの鍵になるだろう。
まずは個人レベルでできることを考えよう。
自分のお金が倫理的に問題ない生産物やプロジェクトに投資されるよう心がけること。たとえ安くても、労働者の搾取につながるもの、環境に害をもたらすものは購入を避けるようにする。
商品の生産過程や企業の倫理性について調べたり考えることはたしかに面倒ではある。
しかしこれらを無視して消費を続ければ、社会はますます歪になってゆくだろう。
- 作者: ミヒャエル・エンデ,大島かおり
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/06/16
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